本当の三年間 第12話 好きですかそうですか

公開日: 2008/05/18

 そもそも、学生の本分は性活と恋愛遊びである。特に中学生という「生徒」としての最低学年という立場の者にとって、これらは生きるうえでの大半を占めている。勿論俺の独断と偏見だ。抗議なんて受け付けてたまるか。
 俺はいわゆる「好きな人」というのが2人いた。これは以前も話したと思う。1人はいわゆるクラスのアイドル的存在で、11日で振られた。それ以降、交流はない。そして、もう1人。名前は、中学の同級生は大抵知っているかもしれないが、あえて出さないでおく。もうあっちは忘れているだろうし、未だに未練がましく思われたらたまったものではない。え?未練はないのかだって?無い訳ないでしょうが。ただ、そう思われたらそれこそ気持ち悪いのですよ。まぁよく考えたらもう5年前か。うおっ、5年も未練タラタラな俺気持ち悪ぃ。
 その彼女(やっぱり便宜上Aと記す)とは、2年で同じクラスになり、そのとき初めて本人と対面した。Aは前話で書いた「ランキング」でも確か10位に載っていたと思う。故に名前だけはぼんやりとながら知っていた。
 確か五月晴れの多い季節の金曜日(何かの理由で休日になっていた)だったと思う。Aからメールが来た。誰かから俺のメルアドを教えてもらったらしい(まったく女子というのはやたらとメルアドやらを知りたがるものだ)。そのころの俺はよくメールもしていたし、特に女子には長いメールで返信していた気がする。このときも俺にしては丁寧で、長いメールをしていた(今はそもそもメールで会話などしない程にまでになった)。Aは前述のとおりランキング内にいる人物で、故に俺にはとてつもない美女に見えた。情報に左右されやすい人物なのだ、俺ってやつは。だからとにかくメールを続けようとかつてない必死さでメールしていた。といっても、別に好きだという訳ではなかった。いわば下心のない下心だったのだ。ん?意味分からん。
 メールの内容は他愛もない話からAの恋愛相談へと移っていった。Aが「好きな人がいる」という。こういうとき、「それは実はあなたなの!」という展開が一昔前は定番だったが(俺の中で)、残念ながらそうではなかった。クラスのイケメン、梶山のことが好きだそうだ。少しがっかりしたが、まぁそりゃそうだろと思いつつ、メールを続けた。昼から始めたメールだったが、気がつけば夜になり、布団にもぐりながらメールを打っていた。しばらくすると話がおかしな方向になってきた。何故だか梶山のことを諦めると言い出したのだ。俺は何か地雷でも踏んだのだろうか。さらにメールをするがAのマイナス思考はとまらない。さらに「次に好きになりそうな人がいる。だけどその人も無理そう」とか言い出したのだ。もうそうなると、俺も手のうちようがない。元々何かを相談されるような人間ではないのだ。結局、俺は「おいおいマジかよ?それ誰よ??」とか言って茶化していた。そこでふと、一瞬、自分にもっとも都合のいい展開が思い浮かんだ。いや、だが、それはもはや理想的過ぎる。ありえん。そう思い、その仮説を白紙に戻そうとしたそのときだった。
 「それはたけおだよ」と返信が来たのだ。
 仮説が事実に変わり、俺は困惑した。そんな馬鹿な。
 結局、俺が「そうか」と流した感じになり、話はうやむや、だけどメールはそのまま夜を挟み続いた。
 そして、日曜日、俺は地元の公園の壁打ち場でボレーの練習をしていた。陽はいよいよ傾いてきていた。それでもメールはまだ続いていた。「電波で送る君へのメッセージ」ってか。くだらない。頭が電波だよ。
 そして、また夜になり、気がつけば3日連続でメールは続いていた。そして、ついに来た。ある意味、望んでいたであろうメールが。そう、いわゆる「告白メール」だ。よく考えたらおかしな話だ。つい2日前まで梶山のことが好きだとかいってたやつに告白されるだなんて。だが、そんなことは思考の外だった。俺はOKした。嗚呼、そうか、ここか。ここが人生に一度だけやってくるという「モテ期」だったのか。くそう。
 そして、次の日、俺は完全に忘れていた。中間テストだった。元々テスト勉強はしないタイプの人間だったが、中学時代は特にそうだった。完全にノータッチ。むしろテストの時期に限って勉強することの意味がまるで理解できなかった。何故そう生産性のないことを平気でできるのか。みんな馬鹿なんじゃないかしら。そう思っていた。ちなみにそんな俺の成績は勿論クラスで(恐らく)ビリから2番目だった。1番は(恐らく)通信簿で「数学1」をとったジョディー君だ。彼には敵わなかった。
 さて、話がそれた。試験のときはいつもの席とは違い、出席番号順の席に着くことになる。そこで気がついた。俺とAの出席番号は近いのだ。確か3番違いだった。元2-Bの人は俺の前の人を思い出してみてほしい。たぶん2人ぐらいだから。そして、俺は一番後ろの席、そう、答案を回収する役目を担うポジションだ。当然、そのときにAと一瞬でも「交流」せざるを得ない、そんな状況になる。緊張。それだけが頭をよぎる。メールで付き合うことが決まった手前、かえって現実世界でどう反応すればいいのかが分からないのだ。だから、朝来たときももどことなくAを避けて、それでいて自分の存在を意識してほしい手前、友人と無駄に大声でしゃべったりした。甘酸っぺぇ甘酸っぺぇ。
 高山、高野の答案を無意識に回収。そして、Aの席に近づく。Aは自分の答案をそっと机の端へ、差し出す。そして、その答案を手に取ったとき、一瞬、目があった。そして、軽く、意味不明の会釈。
 その日の「交流」はそれだけだったが、帰った後メールで「今日話せなくてごめんね」という趣のメールが届いた。嗚呼、良かった。俺は付き合っているのだ。このときにようやく自覚したような、そんな気が、する。
 その後、Aとは11日では終わらず、あともちっとだけ続くことになる。本来、そのことについてを書くべきなのだが、既にこの文面の気持ち悪さに自分でも嫌気が差すし、なんだかAに非常に申し訳ない気持ちになってきたので、ちょっとここで一旦話を区切ろうと思う。大体、Aにとって俺と関わったこと自体、既に葬り去りたい事柄に違いない。だって俺だぜ?今となっちゃ、「綾波は僕の嫁なんです。偉い人にはそれが分からんのです」とか言ってる俺だぜ?俺が女子だったら、泣くな。気持ち悪くて。もっとも、俺は気持ち悪がられることを知ってこのようなことを公言しているのだ。だから「それ女子の前で言うと引かれるぜ」なんていうアドバイスじみたことは止めていただきたい。いや、男子にも最近は引かれている。もうそろそろ現実を直視しなくちゃいけないのかな。嫌だ嫌だ嫌だ!
 さて、話がそれた。最近よくそれるなぁ。とにかく、この時期は確か丁度5月か6月、そう、クラス初めての共同作業となるアレが訪れようとしていた。
 
 体育祭だ。
 
 
 
 
 
[第12話、一旦終]