本当の三年間 第16話 アメフト部

公開日: 2025/5/4

 前回の話であっさり流していたが、テニス部でレギュラーを獲得した俺はその後、テニス一色の生活を送っていた。若干の選民意識もあって、いやな奴になっていた気もする。そのせいなのか、それとも元々だったのか、夏休み後、徐々にクラスでの人づきあいが減っていっていた。当時は本当に認識が無かったのだが、人々はグループで行動するものだというのに、俺はクラスにそういう居場所がなかった。以前は人気者というポジションにいた(と勝手に思っている)が、徐々に昼休みに一人でいることが増えてきた。一人でできることは色々あるし、それ自体は決して悪いものではなかったが、居心地の悪さだけはどうしても否定しきれず、校内をうろうろしたりしていた。今思えば、どこかのグループに適当に混ざれば良いのだが、どうも今までの人生、常に受け身でも受け入れてくれる場所ばかりだったので、そういう行動がとれなかった。そういう発想自体無かった。何だったら「この俺様が空いているぞ。どこかに入ってやってもいいぞ」ぐらいのテンションだった。本当に社会性ゼロだ。典型的な小学校までの人気者(その後は陰キャ)だ。

 校内散歩も飽きた頃、ランニングを始めた。とりあえずテニス部レギュラーっぽいし、居心地の悪さ解消で始めただけだった。勿論、他にメンバーなどいない。部活の時はサボるランニングをわざわざ昼休みにするぐらい居場所がなかった。
 冬の風は運動した身体を素早く冷やし、かくべき汗をかかせず、鼻から入った冷たい空気がツンとほのかな痛みをもたらす。そんな無意味な外周の二週目頃だっただろうか。いつもは誰もいない校庭に数名のクラスメイトが出てきたのが見えた。そして、その内の1名の福田が見慣れない何かを持っていた。そして、お互いにそれをキャッチボールをしている様を見てようやくわかった。アメフトボールだ。ちょうどそのころ、ジャンプでアイシールド21が流行していた。恐らくそれに影響されて買ったものなのだろう。

 アメフトボールのような独特の楕円形のボールに触れる機会なんて早々ない。正直かなり興味をそそられた。しかし、そこで素直に仲間に入れてほしいといえないのがコミュ障の性だ。もう2週ほどして声をかけてもらうことを期待した。嗚呼、自分で書いていて何て恥ずかしい。結局、声をかけてもらえず、そのまま帰ろうとしたところ、彼らも丁度教室に帰るところで、鉢合わせた。
「お、武雄じゃん!何してたの?」と声をかけてきたのは原だった。
「いや、暇だったからランニングしてた」
「えー真面目じゃん!俺らアメフトしてたんだぜ」
「マジで?」と白々しく答える
「暇なら今度一緒にやらない?」
「おう」と内心ウキウキで返事。

 こうして無事、「アメフト部」に入ることになった。
 それからは毎昼休み、校庭でアメフトに明け暮れた。正確には「タッチフット」で、タックルの代わりにタッチしたらそこで止まるというルールだ。
 もうポジションとかどういうプレーをしていたかとかは忘れてしまったが、とりあえずボール持ったら足を活かしてひたすら走っていたのは何となく覚えている。
 ただ、走りながらしゃがんで相手のタッチを避け、そのまま再度立ち上がり走ってタッチダウンしたプレーをしたことだけは覚えている。

 そして、この活動はやがて終わったのだが、いつ終わったのか、何故終わったのか、それがさっぱり覚えていない。
 この時代の物事は大抵そうだ。はっきりしたものなんてない。大した理由もなく何となく始まり、何となく終わる。それは成長途中の学生の特権なのかもしれない。成長するに従い、あらゆることに理由を聞かれ、しっかりとやり遂げることが義務とされる。そのうち、自分の行動原理自体がそうなっていき、無気力感とか、息苦しさとか、そういうものに苛まれる。自分で自分の首を絞めているだけで滑稽だ。でも、その渦中にいる間はそれに気付けない。

 だからせめて、過去を振り返る時ぐらいは、笑ってあげなきゃ。

[第16話、終]